この本の題名がいい。
まず、手に取って何が書いてあるのか、ぱらぱらと読んでしまう、黄色の新書版。
それだけで、この本のPR効果は成功していると思う。
宮口氏の専門は、児童精神科医。
ある少年との出会いが人生の方向を変えることになる。
その少年は性の問題行動をかかえていたため、認知行動療法の治療を行っていた。少年はワークブックを終えるたびに「分かりました」と答え、また外来でも「もうしません」と繰り返すので、「今度こそ大丈夫だ」と思うのだが、次の診察で会う時までに何らかの性の問題を起こすことが何度も続き、著者を落胆させる。
その原因は、彼が知的なハンディも併せ持っていたために、認知機能が弱く、ワークブック自体がしっかり理解できていなかったからだった。
発達障害や知的障害をもった子供たちには、認知行動療法がベースとなったプログラムは効果が期待できない可能性がある。
しかし、実際に現場で困っているのは、そういった子供たちなのだ。
著者は精神科病院をやめ、医療少年院に赴任し、その勤務経験をもとに本書を書くこととなる。
「凶暴で手に負えない少年」がRey複雑図形の模写という課題に対して描いた絵が衝撃的だ。(本書のイラストを見て欲しい)
彼は、”世の中のこと全てが歪んで見えている可能性がある”、見る力がこれだけ弱いと、おそらく聞く力もかなり弱くて、我々大人の言うことがほとんど聞き取れないか、聞き取れても歪んで聞こえている可能性がある。
著者は、これが彼の非行の原因になっており、これを何とかしないと彼の再非行は防げないと考える。
そして、凶悪犯罪に手を染めていた非行少年達が、”ケーキを切れない”ことに驚く(これも、本書のイラストをぜひ見てください)。
彼らに、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、殆ど右から左へと抜けていく、犯罪への反省以前の問題なのだ。
知的なハンディを持った人たちは、普段生活している限りでは、ほとんど健常の人たちと見分けがつかないため、気づかれず、社会から忘れられてしまう。
著者は、虐待してしまう親の中にも、かなりの割合で、気付かれていない知的ハンディを持った人たちがいて、SOSのサインを出していると感じている。
最後に、このような、知的なハンディを持った人に対し、どのようなトレーニングをしていくのが良いのか?
著者は「コグトレ(認知機能強化トレーニング Cognitive Enhancement Training)」を紹介している。
◎凶悪犯罪を起こす少年や、虐待をする親など、ニュースで取り上げられる事件の背景には、このような原因があることを、この本は教えてくれる。
私達が日常生活している学校や職場の中にも、これに類する問題が潜んでいてもおかしくない、そういう問題を抱えている人をいかに見つけ、救済していくことが、社会全体にとって大事なことなのか認識させられる良書。